Consumer Support

2013.01.29

火曜日限定コーナー「コンシューマー・サポート」では、
「消費者問題」をキーワードに、専門家や有識者をゲストにお迎えして、
被害の実態・問題点・救済方法をわかりやすくお届けしていきます。
第8回のテーマは「敷金が返ってこない?」です。

  
スタジオには、弁護士の「谷山智光」さんをお迎えしました。
130129KAL5.jpg

Q.今日のテーマは「敷金が返ってこない?」ということですが,
私は実家暮らしなので教えて下さい。そもそも「敷金」って何ですか?

  
A.家を借りるときには,賃貸借契約という契約を締結します。
その契約のときに,毎月支払う家賃とは別に
「敷金」と呼ばれるお金の支払いを求められることがあります。
これは,家賃の支払その他の賃貸借契約上の債務を担保するために
家を借りる人から家を貸す人へ支払われるお金です。
関西では「敷金」という名前ではなく「保証金」という名前の場合もあります。

Q.担保ということは、「敷金」は返ってくるものなんですか?

A.敷金は,あくまで家賃の支払い その他の賃貸借契約上の債務を担保するためのものですから、
家を借りる人が契約の終了後家を返すときにそのような債務を負っていないときは、
全額返還されることになります。

Q.では,なぜ「敷金が返ってこない?」という問題が生じるのですか?

  
A.敷金が返ってこないとしてよくトラブルになるケースとして1つあります。
1つは,家に生じた汚れやキズの修繕費用が敷金から控除されるケースです。
もう1つは,賃貸借契約の中に,家に生じた汚れやキズの修繕費用を
家を借りる人の負担とする内容の取り決めや,
敷金のうちから一定額を返還しないという内容の取り決めが定められていて,
そのような取り決めに基づいて敷金から控除されるケースです。

Q.1つめのケースですが,家に生じた汚れやキズの修繕費用は
家を借りる人が負担しないといけないものなんでしょうか?

A.汚れやキズがどういう理由で生じたかによって異なります。
賃貸借契約というのは,家を借りる人が家を使用し,その対価として家賃を支払います。
家を使用する以上,ある程度の汚れやキズが発生することは避けられません。
そういうこともあって家を借りる人は家賃を支払っています。
したがって,通常の使用によって生じる汚れやキズ,これを通常損耗といいますが,
通常損耗の修繕費用については,既に家賃で考慮され支払われているといえますので,
別途その修繕費用を家を借りる人が負担するということはないと考えられています。
これに対し,家を借りる人の故意・過失によって生じた損耗,これを故意・過失損耗といいますが,
故意・過失損耗の修繕費用についてまで家賃で考慮されているとはいえませんので,
別途その修繕費用は家を借りる人が負担するということになると考えられます。

Q.通常損耗の修繕費用は家を貸す人が負担して,
故意・過失損耗は家を借りる人が負担するということですね。
では,通常損耗か故意・過失損耗かはどうやって区別するのでしょうか?

A.通常損耗か故意・過失損耗かの区別は容易ではありません。
その区別を巡ってトラブルになることがよくあります。
そのため,国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針を作成し,
その中で,こういう損耗は通常損耗ですよ,
こういう損耗は故意・過失損耗ですよという指針を示しています。
たとえば,日照による畳の変色やフローリングの色落ち,冷蔵庫後部壁面の黒ずみなどは
通常損耗とされています。またポスターを貼ったときの画鋲跡も通常損耗とされています。

他方,落書きや引越作業で生じたひっかき傷や飼育ペットによる柱のキズなどは
故意・過失損耗とされています。
この「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はインターネット上も公開されていますので,
興味があったらご覧下さい。

Q.なるほど。では続いて2つめのケースですが,賃貸借契約の中に,
家に生じた汚れやキズの修繕費用を家を借りる人の負担とする内容の取り決めや,
敷金のうちから一定額を返還しなという内容の取り決めが定められていたら,
敷金は返ってこないのでしょうか?

  

A.まず,賃貸借契約の中に,家に生じた汚れやキズの修繕費用を
家を借りる人の負担とする内容の取り決めを原状回復費用特約といいます。
先ほども話したとおり,通常損耗の修繕費用は家賃で考慮され支払われていますから,
この修繕費用を別途家を借りる人が負担するとなると,
家を借りる人にとっては修繕費用を二重で負担することになりかねません。

そこで,最高裁判所はこのような特約については,
特約が明確に合意されていることが必要であるとして,
それがなければたとえ契約書に記載があっても特約は成立しないとしています。
また,このような特約は消費者である家を借りる人に
一方的に不利益な特約であるから消費者契約法10条により特約を無効とした裁判例もあります。

さらに,敷金のうちから一定額を返還しないという内容の取り決めを敷引特約といいますが,
これについて最高裁判所は,返還しない額が高額に過ぎる場合には
消費者契約法10条により無効となる場合があることを認めています。
したがって,契約書に取り決めがあるからといって,
それが必ず有効になるというわけではありません。

Q.これから春にかけて、引越しする方も多いと思います。
その際に、「あれ?敷金が返ってこない?」なんてトラブルになって
専門家に相談したい場合にはどうすればいいでしょうか?

A.京都府の消費生活安全センターをはじめ,各地センターで相談し,助言を受けることができます。
また,京都敷金・保証金弁護団でも随時相談を受け付けています。

「コンシューマー・サポート」。
このコーナーは,京都消費者力向上委員会が京都府から委託を受けてお届けしています。

京都消費者力向上委員会は,
・京都府生活協同組合連合会、
・京都生活協同組合、
・コンシューマーズ京都(京都消団連)、
・適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
以上の団体で構成された「消費者の消費者力が向上する活動を行う」委員会です。
消費者被害にあった場合には,京都府消費生活安全センターへご相談下さい。

また,適格消費者団体京都消費者契約ネットワークでも
差し止め請求のための情報提供を受け付けています。
詳しくは,各ホームページをご覧ください。
                      

goTop